KPI 設計入門:観光業で意味のある指標(ADR・OCC・RevPAR・GOPPAR)の関係

観光業 KPI 設計入門のカバー画像

補足

対象読者:自治体、DMO、宿泊事業者、観光 DX 担当者、データ分析・システム開発担当者

想定読了時間:8〜10 分

前提知識:宿泊予約、販売チャネル、OTA、客室在庫の基本

最終更新:2026-05-23


TL;DR

  • 宿泊業の基本指標は、ADR・OCC・RevPAR・TRevPAR・GOPPAR の 5 つで整理すると実務に使いやすい。

  • ADR は「単価」、OCC は「稼働」、RevPAR は「客室売上効率」、TRevPAR は「施設全体の総収益効率」、GOPPAR は「運営利益効率」を見る指標。

  • TRevPAR は通常、宿泊施設側の総収益を見る KPI であり、地域の飲食店・交通・体験事業者などへの消費は「地域内消費額」など別 KPI として扱う。

  • 5 指標は入口であり、実務では Net RevPAR、LOS、リードタイム、Pickup、キャンセル率、地域内消費、回遊率などを目的別に追加する。

  • 国籍、予約チャネル、滞在日数、消費データを扱う場合は、個人情報、共同利用、第三者提供、委託先監督、匿名化・集計閾値まで設計する。

  • 単月数字に振り回されず、季節性・曜日・イベント・競合セットとの相対比較で読む必要がある。

1. ADR(Average Daily Rate):平均客室単価

計算式:ADR = 客室収益 ÷ 販売客室数

  • 見るもの:価格戦略の結果

  • 見ないもの:埋まらなかった部屋の機会損失

  • 典型用途:プラン設計、OTA 上の表示価格戦略、国別・チャネル別の単価分析

ADR は「売れた部屋 1 室あたり、平均いくらで販売できたか」を見る指標です。宿泊業のレベニューマネジメントでは最も基本的な指標の 1 つですが、ADR だけを見ても需要を取り切れているかは分かりません。

たとえば ADR が上がっていても、OCC が大きく下がっていれば、強気の価格設定によって販売機会を失っている可能性があります。逆に、ADR が少し下がっていても、稼働率が大きく改善し、RevPAR や GOPPAR が上がっていれば、経営上は合理的な判断だった可能性があります。

インバウンドでは ADR は国別ミックスで動く

インバウンド比率が高い施設では、ADR は単純な「値上げ・値下げ」の結果だけではありません。国別ミックスの変化で大きく動きます。

  • 近距離市場:中国・台湾・韓国などは短期滞在、買い物、飲食、交通利便性への反応が強いケースがある。ただし、都市、季節、旅行目的、リピーター比率で大きく変わる

  • 欧米豪市場:長めの滞在、体験、文化、地域回遊への支出が大きくなるケースがある。ただし、所得層、航空導線、訪問目的、旅程設計で差が出る

  • 富裕層・高付加価値旅行者:客室単価だけでなく、食事、ガイド、送迎、アクティビティなどの付帯収益も大きくなりやすい

同じ ADR 25,000 円でも、1 泊中心の近距離市場と、3〜5 泊する欧米豪市場では、総収益や運営負荷が異なります。ただし、国・地域だけで消費傾向を決めつけるのは危険です。旅行目的、所得層、FIT / 団体、航空導線、訪問回数によって行動は変わるため、ADR は国籍、滞在日数、予約チャネル、人数構成とセットで確認します。

ヒント ADR の改善を議論するときは、「価格を上げたから上がった」のか、「高単価市場の構成比が増えたから上がった」のかを分けて確認します。観光予約データ分析入門と組み合わせて読むと、国別ミックス分析の考え方が整理しやすくなります。

2. OCC(Occupancy Rate):稼働率

計算式:OCC = 販売客室数 ÷ 販売可能客室数 × 100%

  • 見るもの:需要の取り込み度

  • 見ないもの:単価が暴落していないか

  • 典型用途:オペレーション計画、人員配置、清掃計画、食材・備品の発注

OCC は「販売可能な客室のうち、どれだけ売れたか」を見る指標です。需要の強さや集客力を把握するには便利ですが、OCC だけを追うと値下げによる稼働率改善を過大評価しやすくなります。

たとえば、OCC 95% は一見すると非常に良い数字です。しかし、ADR を大きく下げて満室に近づけた結果であれば、利益は残っていないかもしれません。特に人件費、清掃費、朝食原価、OTA 手数料が増える施設では、高稼働でも GOPPAR が悪化することがあります。

GW の OCC 95% を年平均と勘違いしない

典型的なミスは、ゴールデンウィークや大型イベント期間の OCC 95% を見て、「この地域には通年で強い宿泊需要がある」と判断してしまうことです。

実際には、GW、夏休み、紅葉、年末年始、国際会議、スポーツ大会などのピークだけが高稼働で、平日や閑散期は OCC 40〜60% 程度に落ちる地域もあります。単月や特定週の数字を年平均の需要水準と誤認すると、過大投資、過剰採用、価格設計の失敗につながります。

注意 単月の OCC は、曜日配列、連休、イベント、天候、航空座席、為替、近隣施設の休館などで大きく動きます。3 ヶ月移動平均、前年同月比、曜日補正、繁閑期別の比較を併用してください。

3. RevPAR(Revenue Per Available Room):販売可能客室売上

計算式:RevPAR = ADR × OCC = 客室収益 ÷ 販売可能客室数

  • 見るもの:単価と稼働の両方を 1 指標で見た客室売上効率

  • 業界比較でよく使われる指標

  • 限界:原価、OTA 手数料、人件費、付帯収益を見ない

RevPAR は、ADR と OCC を統合した指標です。客室在庫 1 室あたり、どれだけ客室収益を生んだかを表します。

たとえば、次の 2 つの施設は ADR と OCC が違っても、RevPAR は同じになります。

  • 施設 A:ADR 20,000 円、OCC 80%、RevPAR 16,000 円

  • 施設 B:ADR 32,000 円、OCC 50%、RevPAR 16,000 円

この場合、客室売上効率だけを見れば同じですが、オペレーション負荷や利益構造は異なります。施設 A は清掃・朝食・チェックイン対応が多く、施設 B は少ない客数で同じ客室売上を作っている可能性があります。

RevPAR は業界比較に便利ですが、「売上効率」の指標であり、「利益効率」の指標ではありません。

4. TRevPAR(Total Revenue Per Available Room):販売可能客室あたり総収益

計算式:TRevPAR = 施設の総収益 ÷ 販売可能客室数

  • 見るもの:客室以外も含めた宿泊施設全体の収益力

  • 含まれる例:客室、飲食、温浴、スパ、物販、体験、送迎、会議室など、施設側が計上する収益

  • 含めないもの:地域の飲食店、交通事業者、アクティビティ事業者、土産店など、施設外の事業者に発生する消費

  • 限界:コスト構造までは見ない

TRevPAR は、客室収益だけでなく、宿泊施設側が得る総収益を販売可能客室数で割った指標です。観光 DX や Destination OS(DOS)の文脈では、RevPAR よりも TRevPAR の方が施設内の付帯収益を測りやすい場面があります。

たとえば、同じ RevPAR 18,000 円でも、次のような違いがあり得ます。

  • 施設 A:客室中心で、館内の飲食・体験・物販の利用が少ない

  • 施設 B:客室に加え、夕食、地酒、館内体験、送迎、会議室利用などが多い

この場合、施設 B の方が TRevPAR は高くなります。ただし、地域内の飲食店、交通、アクティビティ事業者にも消費が波及しているかどうかは、TRevPAR だけでは分かりません。地域波及を測る場合は、地域内消費額、宿泊者一人あたり地域消費、回遊地点数、滞在時間などを別 KPI として設計します。

インバウンドでは TRevPAR と地域内消費を分けて見る

市場別の消費傾向を見る場合でも、国・地域だけで支出行動を決めつけないことが重要です。滞在中の体験、食事、移動、ガイド、地域産品への支出は、所得層、旅行目的、訪問回数、同行者、航空導線、季節で大きく変わります。

そのため、インバウンド施策では ADR だけでなく、TRevPAR を見ることで「施設内でどれだけ総収益が生まれたか」を把握できます。さらに地域戦略としては、TRevPAR とは別に、地域内消費や地域事業者への送客実績を確認する必要があります。

補足 TRevPAR は、宿泊施設単体の総収益 KPI として使います。DOS では、客室、飲食、体験、交通、地域事業者のデータをつなぎ、TRevPAR と地域内消費を混同せずに、施設収益と地域波及をそれぞれ見られる状態を目指します。

5. GOPPAR(Gross Operating Profit Per Available Room):販売可能客室あたり運営利益

計算式:GOPPAR = GOP(売上総営業利益・運営利益)÷ 販売可能客室数

  • 見るもの:実際の運営上の儲かり度

  • 限界:GOP の定義は管理会計方針に依存し、会計上の営業利益と同一とは限らない

  • 典型用途:投資判断、複数施設比較、運営改善、オーナー報告

GOPPAR は、販売可能客室 1 室あたりの GOP(Gross Operating Profit)を見る指標です。RevPAR や TRevPAR が売上効率を見るのに対し、GOPPAR は運営利益効率を見ます。

ここでいう GOP は、一般に売上から運営に直接関係する費用を差し引いた「売上総営業利益」または「運営利益」を指します。ただし、減価償却、固定費配賦、本部費、金融費用、税金などをどこまで含めるかは、施設や運営会社の管理会計方針によって異なります。そのため、日本の会計上の「営業利益」と完全に一致するとは限りません。

宿泊業では、売上が増えても利益が増えるとは限りません。OTA 手数料、人件費、清掃費、食材費、光熱費、外注費が増えれば、RevPAR が上がっても GOPPAR が下がることがあります。

たとえば、直販比率が高い施設と OTA 依存度が高い施設では、同じ ADR・OCC・RevPAR でも利益は変わります。OTA 手数料は契約条件により異なりますが、一般的には一定割合の販売手数料が発生するため、チャネルミックスは GOPPAR に直結します。

図1:宿泊業 KPI ツリー。GOPPAR を頂点に、TRevPAR と RevPAR が並び、RevPAR は ADR × OCC に分解される。

KPI ツリーとして見ると、GOPPAR は次のように分解できます。

この構造を使うと、「価格を上げるべきか」「稼働を取りに行くべきか」「直販を増やすべきか」「付帯収益を増やすべきか」「運営コストを下げるべきか」を分けて議論できます。

注意 GOPPAR を施設間比較やオーナー報告に使う場合は、GOP の定義を必ずそろえてください。減価償却、固定費配賦、本部費、委託運営費などの扱いが異なると、同じ GOPPAR でも意味が変わります。

6. 関係性と典型シナリオ

図2:ADR × OCC 4 象限分析。各象限の戦略意味付け(強気価格 / 値下げで埋める / ベスト / ワースト)。

5 つの指標は、単独で見るのではなく関係性で読むことが重要です。

  • ADR↑ + OCC↓:強気価格で稼働を犠牲にしている状態。高付加価値化や人員不足時には戦略的にあり得る。

  • ADR↓ + OCC↑:値下げで埋めている状態。短期の需要取り込みには有効だが、ブランド毀損や利益悪化に注意。

  • RevPAR↑ + GOPPAR↓:売上効率は上がっているが、手数料・人件費・原価が増えて利益が残っていない状態。

  • RevPAR 横ばい + TRevPAR↑:客室売上は同じでも、施設内の飲食・体験・物販などの付帯収益が伸びている状態。

  • TRevPAR↑ + GOPPAR↑:施設の総収益と運営利益の両方が改善している状態。付帯収益の伸長、直販強化、原価率改善、人員配置の見直しなどが要因候補になる。

  • OCC↑ + GOPPAR↓:稼働は上がったが、低単価販売や運営負荷増で利益が悪化している状態。

たとえば、レベニューマネジメント入門で扱う価格調整は、ADR と OCC だけでなく、RevPAR、TRevPAR、GOPPAR まで見て評価する必要があります。オーバーブッキング戦略も同様に、稼働率だけを上げる施策ではなく、キャンセル率、代替手配コスト、顧客体験、利益への影響まで含めて判断します。

7. 読み方の落とし穴

図3:計算の流れの例。明細(左)→ 合計(中)→ 内訳分解(右)。

単月の数字に反応しすぎない

単月の ADR、OCC、RevPAR は、季節性やイベントで大きく動きます。特に観光地では、GW、夏休み、紅葉、雪、桜、年末年始、国際会議、クルーズ寄港、航空路線の増減などが影響します。

GW に OCC 95% を記録したからといって、通年で 90% 以上の稼働が見込めるとは限りません。年平均、繁忙期平均、閑散期平均、平日・休前日別、国籍別、チャネル別に分けて見る必要があります。

CompSet なしで絶対値だけを見る

競合セット(CompSet)と比較せずに、自施設の数字だけを見ると判断を誤ります。ADR 28,000 円が高いか低いかは、地域、施設グレード、客層、食事条件、ブランド、立地によって変わります。

CompSet は、次の観点で 5〜10 施設程度を選ぶのが実務上扱いやすいです。

  • 立地:同一温泉地、同一駅圏、同一観光エリア、同一送迎圏

  • 価格帯:通常期・繁忙期の販売価格が近い施設

  • 施設タイプ:旅館、ホテル、リゾート、町家、グランピングなど

  • 客層:国内ファミリー、インバウンド、富裕層、団体、ビジネスなど

  • 販売チャネル:OTA 中心、直販中心、旅行会社経由、海外 OTA 依存など

  • 食事条件:素泊まり、朝食付き、夕朝食付き、オールインクルーシブなど

CompSet は一度作って終わりではありません。新規開業、リニューアル、ブランド変更、航空路線、観光導線の変化に応じて見直します。

市場比較まで踏み込む場合は、次の補助指標も使います。

  • MPI(Market Penetration Index):自施設の OCC が市場平均に対して強いかを見る

  • ARI(Average Rate Index):自施設の ADR が市場平均に対して強いかを見る

  • RGI / RevPAR Index:自施設の RevPAR が市場平均に対して強いかを見る

OTA 経由と直販を混ぜて見る

同じ ADR でも、OTA 経由と直販では手数料控除後の利益が異なります。RevPAR が改善していても、OTA 比率が上がっていれば GOPPAR は伸びないことがあります。

そのため、チャネル別に次の指標を分けて見ることが重要です。

  • ADR

  • OCC

  • RevPAR

  • Net ADR:手数料や販売関連コストを差し引いた実質単価

  • Net RevPAR:手数料や販売関連コストを差し引いた販売可能客室あたり収益

  • チャネル別貢献利益

  • キャンセル率

  • 手数料控除後収益

  • リピート率

  • 顧客獲得単価

需要管理指標を見ない

ADR、OCC、RevPAR だけでは、予約がいつ、どの速度で、どの条件で入っているかは分かりません。価格を動かす実務では、需要の「量」だけでなく「タイミング」と「確度」を見る必要があります。

補助指標として、次を確認します。

  • LOS(Length of Stay):平均滞在日数

  • リードタイム:予約日から宿泊日までの日数

  • Pickup:特定期間に増えた予約数・客室数

  • キャンセル率

  • No-show 率

  • 直前割引率

  • 在庫制限:最低宿泊日数、到着日制限、販売停止、プラン別在庫配分など

たとえば、同じ OCC 80% でも、60 日前から安定して入っている予約と、直前割引で前日に埋めた予約では、価格戦略も利益構造も異なります。

客室売上だけで地域価値を判断する

地域観光では、宿泊施設の客室売上だけでは価値を測り切れません。飲食、交通、体験、ガイド、土産、二次交通、ナイトタイムコンテンツなどを含めた総消費を見る必要があります。

この観点では、RevPAR や TRevPAR だけでなく、地域内消費額、宿泊者一人あたり地域消費、滞在時間、回遊地点数、再訪率、域内調達率などを組み合わせて見ることが重要です。

注意 地域内消費は TRevPAR とは別 KPI です。TRevPAR は施設側の総収益を測る指標であり、地域事業者に発生した消費まで自動的に含むものではありません。

指標定義書なしでダッシュボードを作る

KPI ダッシュボードを作る前に、指標定義書を作ります。定義が曖昧なままツールを導入すると、施設ごと、部署ごと、ベンダーごとに数字がズレます。

最低限、次を定義します。

  • ADR に税、サービス料、食事込みプラン、ポイント原資を含めるか

  • 客室収益にキャンセル料、No-show 料、アップグレード料を含めるか

  • 販売可能客室数から休館、売止め、故障部屋、改装部屋を除くか

  • OCC を部屋単位で見るか、人数単位で見るか

  • TRevPAR に含める部門収益の範囲

  • GOP に含める費用、含めない費用

  • OTA 手数料、決済手数料、広告費、ポイント費用の扱い

  • 更新頻度、締め時刻、確定値と速報値の違い

ベンダーやシステム会社に確認する質問例は次の通りです。

  • PMS、サイトコントローラー、OTA、会計、POS のどの値を正として使いますか。

  • ADR、RevPAR、TRevPAR、GOPPAR の計算式を画面上または仕様書で確認できますか。

  • 税込、税抜、サービス料込み、手数料控除前後を切り替えられますか。

  • 休館、売止め、故障部屋、改装部屋は販売可能客室数に含まれますか。

  • 予約変更、キャンセル、No-show、返金はどのタイミングで反映されますか。

  • チャネル別、国籍別、滞在日数別に集計したとき、少数セルのマスキングはできますか。

NG サインは次の通りです。

  • 「業界標準です」とだけ説明し、計算式を開示しない

  • 税込・税抜、手数料控除前後、速報・確定の区別がない

  • CSV 出力とダッシュボード画面の数字が一致しない

  • 指標定義を施設別に変更できるが、変更履歴が残らない

  • 個人単位の宿泊・決済・移動データを、目的や同意の整理なしに結合しようとする

個人情報と事業者データの扱いを後回しにする

国籍、予約チャネル、滞在日数、消費、移動、アンケート、会員 ID などを組み合わせると、個人情報または個人関連情報の扱いが問題になります。自治体、DMO、宿泊事業者、地域事業者、システム会社が関わる場合は、データ利活用の前に法務・契約・運用を整理します。

確認項目は次の通りです。

  • 利用目的:宿泊 KPI 分析、地域消費分析、施策評価、広告配信などの目的を分けて明示する

  • 共同利用:共同利用者の範囲、利用目的、項目、管理責任者を明確にする

  • 第三者提供:提供先、提供項目、本人同意、オプトアウト可否、記録義務を確認する

  • 委託先監督:分析ベンダー、DMP、BI ツール、クラウド事業者への委託範囲と再委託を管理する

  • 匿名加工情報・仮名加工情報:個人を識別できない形にする場合も、加工方法、再識別禁止、提供時の公表事項を確認する

  • 集計閾値:少数セルを出さないため、国籍別・チャネル別・地域別集計に最低件数を設ける

  • 保管期間:予約データ、決済データ、アンケート、ログの保存期間と削除方法を決める

  • 権限管理:自治体、DMO、施設、ベンダーごとに閲覧できる粒度を分ける

ベンダー質問例は次の通りです。

  • 個人情報、個人関連情報、匿名加工情報、仮名加工情報をどのように分類していますか。

  • 共同利用または第三者提供に該当するデータ連携はありますか。

  • 再委託先、クラウドリージョン、ログ保管期間、削除手順を開示できますか。

  • 少数セルの非表示、丸め処理、しきい値設定はできますか。

  • データ主体から開示、訂正、利用停止を求められた場合の運用はありますか。

  • 分析目的を超えて広告配信、スコアリング、外部販売に使われることはありませんか。

NG サインは次の通りです。

  • 「匿名化するので問題ありません」とだけ説明し、加工方法や再識別リスクを説明しない

  • 施設、DMO、自治体、ベンダーの役割が、共同利用なのか委託なのか第三者提供なのか曖昧

  • 国籍別や小地域別の少数データを、そのまま共有・公開しようとする

  • 契約書に再委託、目的外利用、削除、漏えい時対応の定めがない

  • 補助事業の成果報告用に、当初目的と異なる個人単位データを追加利用しようとする

8. ベンチマークデータソース

宿泊 KPI を読むときは、自社データだけでなく、外部ベンチマークも併用します。代表的なデータソースには次があります。

  • STR(CoStar のホテルベンチマークサービス。旧来 STR Global と呼ばれることもある):ホテル市場の ADR、OCC、RevPAR などのベンチマークで広く使われる民間データソース

  • HotStats:ホテルの売上・部門別収益・利益指標など、運営収支寄りのベンチマークに使われる民間データソース

  • 観光庁 宿泊旅行統計調査:延べ宿泊者数、外国人延べ宿泊者数、客室稼働率などを把握できる公的統計

これらのデータは、粒度、対象施設、集計方法、公開タイミングが異なります。自治体や DMO が地域戦略に使う場合は、観光庁の宿泊旅行統計調査を基礎にしつつ、必要に応じて STR や HotStats などの民間ベンチマークを組み合わせます。

注意 観光庁「宿泊旅行統計調査」は、2026年1月分調査から層化基準が「従業者数」から「客室数」へ変更されています。前年同月比や長期時系列を見る場合は、調査仕様変更の影響を確認してください。最新情報は観光庁の宿泊旅行統計調査ページと各月の速報資料で確認します。

注意 統計やベンチマークは、調査対象、集計単位、更新頻度、定義が異なります。施策評価や補助事業の成果指標に使う場合は、最新の公表資料を確認し、必要に応じて所轄監督庁や観光庁ページで最終確認してください。

9. DOS で KPI を扱う意味

図4:KPI ダッシュボード Mockup。2×3 ウィジェット(数値カード / バー / ゲージ / トレンド / 積上げ / ドーナツ)。

Destination OS(DOS)では、宿泊施設単体の KPI だけでなく、地域全体の観光経営に使える形でデータを接続します。

宿泊 KPI は、次のような地域課題と直結します。

  • 需要予測:季節、曜日、国籍、イベントによる宿泊需要の変動を把握する

  • 価格戦略:ADR と OCC のバランスを見ながら、過度な値下げを避ける

  • 付帯消費:TRevPAR を通じて、施設内の飲食・体験・物販の伸びを把握する

  • 利益改善:GOPPAR を通じて、売上ではなく運営利益に残る施策を選ぶ

  • 地域連携:宿泊者を地域事業者へ送客し、地域内消費を増やす

  • 政策評価:観光振興策、補助事業、プロモーションの効果を指標で検証する

たとえば、自治体や DMO が「外国人宿泊者数を増やす」だけを目標にすると、低単価・短期滞在・地域内消費が少ない需要を過大評価する可能性があります。地域観光 OS 的なデータ基盤では、国籍別 ADR、LOS、TRevPAR、地域内消費、GOPPAR を組み合わせ、施設収益と地域波及を分けて見ます。

ただし、すべてのデータが同じ場所から取れるわけではありません。宿泊 KPI は PMS、サイトコントローラー、会計、POS から取得し、地域内消費は決済データ、地域事業者の売上、アンケート、クーポン利用、入込データなどを組み合わせて推計します。データの出どころ、取得頻度、粒度、利用目的を分けて設計することが重要です。

補足 補助金や実証事業で KPI を設定する場合、採択要件、補助率、上限額、対象経費、成果報告の形式は制度ごとに異なります。制度名を例示する場合は、所轄監督庁、当年度の最新公募要領、交付要綱、事務局 FAQ を必ず確認してください。

10. 実務での使い分け

宿泊 KPI は、目的によって使い分けます。

  • 価格施策を見る:ADR、OCC、RevPAR

  • 需要の取り込みを見る:OCC、RevPAR、Pickup、リードタイム、キャンセル率

  • 客室在庫の売上効率を見る:RevPAR、Net RevPAR、RGI / RevPAR Index

  • 付帯収益を含めた施設全体の収益力を見る:TRevPAR

  • 最終的な運営改善を見る:GOPPAR、チャネル別貢献利益

  • 地域観光への波及を見る:地域内消費、滞在日数、回遊率、再訪率、域内調達率

  • 投資判断を見る:GOPPAR、キャッシュフロー、改修費、減価償却、投資回収期間

現場では、まず ADR・OCC・RevPAR で客室販売の状態を把握し、次に TRevPAR で施設内の付帯収益を確認し、最後に GOPPAR で運営利益に残っているかを判断します。地域観光の評価では、これとは別に地域内消費や回遊率を見ます。

これにより、「稼働は高いが疲弊している」「売上は伸びたが利益が残らない」「宿泊者は増えたが地域消費が増えていない」といった問題を早期に発見できます。

実務ダッシュボードの最小構成

最初から全指標を作り込む必要はありません。まずは、次の粒度で見られる状態を作ります。

  • 更新頻度:日次、週次、月次

  • 粒度:施設別、部屋タイプ別、国籍別、チャネル別、平日・休前日別

  • 基本指標:ADR、OCC、RevPAR、TRevPAR、GOPPAR

  • 補助指標:Net RevPAR、LOS、リードタイム、Pickup、キャンセル率、No-show 率

  • 地域指標:地域内消費額、宿泊者一人あたり地域消費、回遊地点数、滞在時間

  • 管理項目:指標定義、データソース、更新時刻、責任部署、閲覧権限

意思決定の例は次の通りです。

  • ADR は上がったが Net RevPAR が伸びない:OTA 手数料や広告費を確認する

  • OCC は上がったが GOPPAR が下がった:低単価販売、清掃費、人件費、朝食原価を確認する

  • TRevPAR は上がったが地域内消費が伸びない:館内消費に偏っていないか、地域事業者への送客導線を確認する

  • Pickup が鈍いがリードタイムが長い市場は動いている:早割、最低宿泊日数、在庫制限を見直す

  • キャンセル率が高いチャネルが伸びている:キャンセルポリシー、保証条件、オーバーブッキング許容量を確認する

関連:レベニューマネジメント入門/観光予約データ分析入門/オーバーブッキング戦略